2007年12月24日月曜日

脳科学のお勉強 1


今年は何回か、脳科学関連の講演会に足を運びました。

でもそのときは面白いな、と思っていても、私ってすぐに忘れてしまうのよ。
後になっても覚えていることといったら、発表者がどんなネクタイをしていたとか、
会場が寒かったとか、そういうことばかり。
ちょいと情けないわね。

それに時間と交通費をかけて行ったのに、もったいないじゃない?

と思っていたら、その講演会で発表した研究者たちによる「脳研究の最前線」という本がブルーバックスから出版されたので、それを読み返して、ちょっと復習してみることにしました。

何かの本で読んだのだけど、少し昔までは、脳についての著書というと、ある研究者が一人で一冊の本が書けるような内容だったんですって。
ところが最近、特にここ10年ほどは、研究内容が細分化してきて、たとえ有名な研究者であっても、自分の守備範囲以外のところは分かりにくいらしいのよ。

それでこのシリーズ本も12人の研究者が分担して書いているの。
私は仕事柄、その12人の方のお名前くらいは知っているのだけど、普段は専門家向きの論文を書いている研究者が、ブルーバックスのような一般人向きにどのように書いているのかも興味がありますね。

上巻は、「脳の認知と進化」というサブタイトルがついていて、脳全般に渡る内容のようです。

下巻は「脳の疾患と数理」というサブタイトルで、アルツハイマーのことや、理論的なことがメインのようです。


まずは上巻、第1章は「脳のシステム」。谷藤学さんという方が書いています。

トップバッターだけあって、ずいぶん、書き方を工夫したと思うのよ。

たとえば、「あなたが路上でタクシーを捜して、空車のタクシーを見つけて、それに手を上げて、タクシーに乗り込み、目的地まで行く時まで」の脳の仕組み、なんてことを話題にしながら説明してあるの。

普通に考えれば、黄色い色の車を探して、TAXIのマークがついている車を見つけたら一歩足を踏み出して、さっと手を上げて合図をする・・・
そんなの誰だって分かるじゃない、と思うでしょ。
ところが、こういう一連の動作をするだけで、人間の脳ではすごくたくさんのことが動いているんですって。

たとえば、ある物体が、どうしてそれが車と分かると思う?

それはね、フロントガラスの直線とか、タイヤの丸みとか、そういういくつもの線分をたーくさん、つなぎ合わせて、そしてそれが車だと判断できるまでには、目と脳が大活躍しているらしいの。
おまけにその車が自分のほうに向かって走っているのか、あるいは反対の方向に走っているかを判断するのにも、脳の中の部分が活躍しているんですって。
もちろん色を区別するにも脳が働かないとだめ。

自分の中では、「これがタクシーだ」と分かるには1秒もかからないはずなのに、そんなにいろんな部分が活躍しないと分からないなんて、脳って大変な働き者なのね。

私が想像するに、谷藤さんという人はこの章を書くのにすごく苦労したと思うのよ。
というか編集者の人から、「これは最初の章なので、なるべく誰にでもとっつきやすいように書いてくださいよ」と言われたのかもしれないわ。

だって、普通の脳の本なら、何やら難しい用語がこれでもか、とばかりにどっさり登場するのに、この章では「9つだけ覚えておいて下さい」と言うのよ。
9こくらいなら仕方ないわよね。

(その9この他にもうひとつあるのだけど、これは我慢しましょう。)

それに何より分かりやすいのが、この著者は脳の中の部分を「役者さん」というふうに呼んでいるのよ。

今まで脳科学の本を何冊か読んできたけれど、「役者」なんて書いてあった本はこれが初めてよ。
私なんかには分かりやすいけれど、専門家はどう見るのかしら?

とにかく、登場する役者さんは以下のとおり。登場順に書いてみると、

まず最初は<運動実行部隊>といって

役者0:
 脳幹と脊髄(これは誰でも分かるわね。脳みその真ん中にズドーンとあるもの。
役者4:
 大脳皮質(脳の外側にあるところよ、厚さが2ミリくらいなんですって))の運動野というところ。
役者5:.
 役者4を補足するところ。
役者6:
 役者5と同じような仕事をするところ。
役者4・5・6はだいたい頭頂あたりに位置しているみたいね。

お次のグループは<運動調整班>といって、運動の微調整をしているところ。
つまり動作をスムーズにするとかそういう役目をしているようよ。

役者7:
 小脳(これはよく知っているでしょ、頭の後ろの下のほうにあるわよね)
役者8:
 大脳基底核(これは頭のかなり中のほうにあるらしいわ)

お次のグループは<感覚情報処理班>と名づけられているの。

役者1:
 視覚の初期段階の処理をするところ。
役者2:
 目に映ったものが「何」であるかを判断するところ。
役者3: 
 目に映った物体がどういう動きをするかを判断するところ。

最後に<取締役>というのがあって、

役者9:
 大脳皮質の前頭前野(おでこのあたりかしら)。
ここが人間の人間らしさを生み出すところのようです。

つまり前頭前野は感覚情報処理班と、運動実行部隊の上に立っていて、指令を行っているところのようです。

脳のことを知りたいのなら、最低、脳というのは、これくらいの部分に分かれて作業をしているということを知らないとならないようね。

この章は、こんなふうに脳の各分野を役者に見立てて説明しているので、少しはとっつきやすいかもしれないわね。

でも後半になると、「意識」とか「認識」とかいう言葉が出てきて、それがまた混乱のもとなのよ。
つまり専門家のいう「意識」と、私たちが使う「意識」とは違うのよね。
きっと心理学者が使う「意識」というと、また微妙に違うのかもしれない。
だから本を読んでいても、何を言っているのかが分かりにくいわ。
このあたり、易しく書くのが難しい内容なのかもしれない。

脳のことって、専門家に任せなくても、自分の身体の一部なので、何となく分かる気分になるのに、それなのに、「こころ」というつかみきれないところがあるので、なんだか近寄りがたい存在にしているような気がするの。
誰でもがコメントを出せる話題なんだけど(たとえば、<最近、物忘れがひどくてね>などという会話は誰でもしているものね)、決定版がないのよね。

最近は脳トレブームだし、脳関連のいろんな書籍も出ているけれど、守備範囲が広すぎて、どこから手を付けていいのか分からない、ということも多いと思うの。

今ではいろんな高度な機械操作によって、脳の中の動きが見えるらしいけれど、どういうことが分かると人間が幸せになれるのかしら。
ニューロエコノミクスとか、ニューロマーケッティングなどという経済学も登場するような時代よ。
いったい、脳のどこまで分かってしまうのかしら。

脳の中身がどんなふうになっているかを、知らなかった時代の人たちだって、きっと幸せに暮らしていたはずよ。
だから、今は脳の仕組みが科学的に分かるようになった分だけ、もっと人々がハッピーに暮らせるようにならないといけないのではないかしらと、思うのよ。

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