2010年1月22日金曜日

天才・橋本治 「窯変 源氏物語」

長い長い物語を読み終えました。

橋本治さんの「窯変 源氏物語」全14巻です。

これまでいろいろな人の源氏物語訳を読んできましたけれど、これほど長いのはありませんでした。
1巻がほぼ500ページくらいの分厚い本です。それの14倍というと、7000ページ!

うーむ、いくら原作があるとはいえ、これほど長く訳するのは大変な作業だったと思います。

私が橋本さんの訳本を読み始めたのは、なんと、2008年の12月ごろだったようだわ。1年以上かかったわけね。

こちらの足跡を見て判明しました。


橋本さん、と気楽にお呼びしていますが、実は橋本さんは私の高校の先輩に当たる方なのです。
もちろん、あちらは私のことなど、ちーともご存知ないでしょうが、こちらはよく存じておりますよ。何せ、あの東大の文化祭のポスター「とめてくれるなおっかさん、背中のイチョウが泣いている、男東大どこへ行く」という有名なコピーでデビューした方なのですから。

橋本さんの源氏物語訳の特徴は、心理描写が非常にていねいで細やかで、そして彼の博識あふれる解説部分がふんだんに挿入されていること、それに言葉づかいが非常に美しいことです。

そして他の訳者との一番の違いは、最初の光源氏が主人公の部分が、なんと光源氏本人の言葉で語られていることです。つまり「私は・・・・」という文体なのです。
そして後半の宇治十帖は紫式部が語り手になっています。

またもう一つの特徴としては、古典文学とは関係ないような外国人の美しい男女のモノクロ写真がところどころに載っていることです。たぶんフランス人なのでしょうけれど、とても美しい男女の姿があり、それが目でも楽しませてくれるのでした。


私は橋本さんの源氏物語の本を読んで、今までつまらなくて読み飛ばしていたところにも、深い意味があるのだと分かりました。
たとえば光源氏が亡くなってその後、宇治十帖に入るまでの数巻は、これまではなんだかつなぎのような感じがしてあまり面白さを感じなかったのですが、橋本さんの訳を読んで、なるほどね、と思うことが多くありました。

ただし、はっきり言って、源氏物語初心者には、橋本さんのこの本はお勧めしません。
巻ごとに人間関係図があるので、それは参考になりますけれど、あまりに長くて、奥深くて、ついて行くのが大変な部分があり、結局、最後まで付き合えないかもしれないからです。


私が、これだけ長い本を読み上げることができたのは、通勤手段が電車になったことです。
これまでは自転車通勤だったので、読書の時間というのは寝る前のちょっとの時間くらいしかなかったのですけれど、電車の中で本が読めるので、それが一番の楽しみでした。
人間の心のひだまで深く入ったこの本は、混んだ電車の中にいても、まるでそこだけ違う世界に浸ることができるように感じられました。

橋本さんの源氏物語を読みつつ、並行して現代作家のものや、全くジャンルの違う本も何冊か読んでいましたけれど、この美しい本に勝るものはありませんでした。


前に橋本さんの「桃尻語枕草子」を読んだことがありますけれど、「窯変 源氏物語」それとはまったく違い、本当に重厚で豪華でそして難解な本でした。本当に橋本さんは天才なんだな、と思いました。

2 件のコメント:

マサ さんのコメント...

14巻、7000ページ!う~ん、すごい。訳すのも大作業でしょうけど、読みきったとしちゃんもすごいわ。
本が読めるというのは、電車通勤のいいところですよね。家にいると、落ち着いて読書する時間が捻出できないもの。というか、しないだけなんでしょうね。
上りの混んだ電車でないのも幸いね。

源氏初心者には、どなたの訳がお奨めですか?

おおしまとしこ さんのコメント...

ほんと、1年がかりで読みました。あちこち旅行に行くときにもいつもカバンに入れていたの。電車もなるべく座って読めるように一つ遅らせたりしていました。とにかく重い本なんですもの。
初心者にはやはり瀬戸内さんのが読みやすいと思いますよ。全部訳したのは10巻あるけれど、1冊にまとめた「寂聴の源氏物語」とかいうのが出ていたと思います。エッセンスが詰まっています。
今は谷崎潤一郎のを読みかかったところ。橋本さんのとモードが違っているのがよく感じられますよ。