2011年7月11日月曜日

「花のきもの」

宮尾登美子さんの「花のきもの」を読みました。


以前読んだ「きものがたり」が画像による着物紹介本だとすると、こちらは文字による着物紹介本です。

どちらも宮尾さんの持っている着物や、あるいはかつて持っていた着物に対する思い出がたくさん綴られているのですが、こちらの「花のきもの」はタイトル通り、花柄の着物だけ(中には矢羽根とか縞とか絣もありますけれど)をよりすぐったものです。

着物の柄をちゃんと覚えているだけでもすごい記憶力なのに、それにまつわるいろいろな戦前からの話がびっしりと書かれていて、驚くばかりです。

それもご自分が着ていた着物だけでなく、お母さんが着ていた着物、仕込みの娘たち(宮尾さんの実家は芸妓紹介業だったのでいつも女の子が住んでいた)の着物、女中さんなどの着物、男衆たちの着物のことが綿密に描かれていて、ほんとにまぁ良く覚えているものだと感心しました。

私など母の着物姿は覚えてはいますが、あれは臙脂色の着物だったとか、銘仙の着物だったとか、卒業式には薄紫の着物を着ていた、ということくらいしか覚えていなくて、どんな模様だったなどまるで思い出せませんもの。

そんな記憶のよい宮尾さんですが、嫁入りのときに持参したたくさんの着物は、満州での新婚生活のときに全部、剥奪されてしまい、麻袋一枚で帰国しました。
その後、嫁入り先のお母さんから受け取った着物から少しずつ増えて行き、今では「きものがたり」にもあるように何百枚と言う着物保管数になっています。

この本では着物の紹介は次のように分類されています。



くす玉

南天
矢羽根
薔薇
椿

紫陽花
朝顔


以上12章から構成されていますが、それぞれの思いが素晴らしい。

一番よかったのは、紫陽花の章です。

彼女のお母さんは紫陽花の柄の着物が大嫌いだったのですが、それは宮尾さんのお兄さんが若くして結核で亡くなってしまいましたが、そのお兄さんの寝室の庭には紫陽花が咲いていたそうで、それでお母さんはお兄さんのことを思い出すのが辛いので紫陽花の花は嫌いだったそうです。
ところが二番目のお兄さんのお嫁さんになった人はそのことを知らずに、ある夏の日、紫陽花の柄の浴衣を着て遊びにきたのですが、それを見てお母さんは猛烈に怒り、「そんな着物なんて脱いでしまえ」と叫んだそうです。
そんなこともあって宮尾さん自身も紫陽花の柄の着物は着たくなかったようですが、あるとき、もうお兄さんも亡くなって数十年経ち、お母さんの呪縛も解けたので、紫陽花柄の素敵な訪問着を作ったそうです。
その話が一番良かったですね。

私にとって花柄の着物といえば、子どもの頃に着た藍色の朝顔の浴衣でしょうか。
私は子供のくせに赤やピンクの浴衣は大嫌いで、おばあちゃんに頼んで白と藍の浴衣を作ってもらった記憶があります。

今、自分で買っている着物は紬のようなものが多く、あまり花柄はありませんね。

こちらは前に写したものですけれど、白い牡丹の模様です。


女医さんから頂いた着物ですけれど、この柄は気に入っています。

それと宮尾さんや幸田文さんなどの本を読むといつも思うことなのですが、昔の女性はどんな身分の人であれ、自分で着物を縫えたことに驚きますね。それにいつも繕いものをしたり、ちょっと丈を長くしたりすることを誰でもできたということです。

私も着物を着るようになって、以前よりは針と糸を持つ機会が増えましたけれど、着物を縫うことまではできません。

今の若い女の子ならたいて誰でもパソコンの操作ができるように、当時の女性は誰でも縫物ができたのでしょうか。

2 件のコメント:

史子 さんのコメント...

紫陽花のお話にうるっと来てしまいました。
どの着物も、思い出と共に記憶に刻まれているのでしょうか。

すてきな生き方ですね。

ちょっと周りを見渡してみましたが
・・・・・・・ないな、思い出.....

うちのおばあちゃんも着物を縫ってましたよ!
母は若い頃日舞を習っていたそうで
その時の浴衣は、ぜんぶおばあちゃんが縫ったものだそうです。

あたしが生まれてからはもう
大きなものは縫えなくなっていましたけど
お人形のは、お願いするとすぐに作ってくれたり。

和裁は弟子入りして習うのに10年と言いますけれど
たしなみとしても生活上の必須としても
暮らしに即した縫い物はできなきゃいけなかったんでしょうね。

おおしまとしこ さんのコメント...

史子さん、おはようございます。
お母様はおばあちゃんの縫った浴衣で日舞をされていたんですか。
うちの母は洋裁も和裁も得意でした。今はもう駄目ですけれど、ちょっと前まではいつも繕いものをしていました。私が日舞を習うのがもう少し前ならきっと浴衣を縫ってくれたでしょうけれどね。
お人形さんの着物なら、史子さんでも縫えるかもしれませんよ。うんと袖を長くしたら可愛いでしょう。
この本を読んで、着物と言うのは洋服以上にいろんな思い出があるものだと思いましたね。洋服だと、これはシャネルだとかプラダだとかブランドくらいしか話題にならないかもしれませんけれど、和服は縫った人の思いも伝わってくるみたいです。